遠くの空で想うこと

学生の頃、もうずっと昔。

井上靖の「西域物語」が大好きだった。紀行文なんだけど、行ったこともない、遠い空に想いを馳せた。

王紹君 劉細君 文成公主 遠い僻地に嫁に行かされた女性達。

「願わくば 黄鵠になりて 故郷に帰らん」細君の詩の最後を読むとき、中学生ながら涙した。夫たる老いた王とは言葉も通じず、風俗は何もかも知らない事ばかり・・・

・・・これは、現代にも言えることなのだと。

私はあまりに嫁いだ先の文化が違い過ぎて、年末に家出をした方を知っている。里帰りなんだけど、気分的には「家出」なのだろう。「(なぜ、こんなめにあうのだろうか)私がいったいどんな悪い事をしたのでしょうか」って。もちろん、嫁ぎ先に戻られましたが。

私が気になっていた子。一足違いで遠くへ行ってしまった。

美味しいご飯を貰ってますか?

言葉は通じていますか?

あなたを優しく抱きしめてくれてますか?

どうか、どうか幸せでありますように。

私のかわいいSarah。

Candyという二つ名を持つ私のSarahぺっこ。

あなたを想う時、身体を固くして、私に抱っこされた、あの日を想い出します。

私の言葉はあなたに通じていますか?

・・・あなたは遠い空の果てのお里を想うことがありますか?

昔「蔡文姫」という女性がおりました。現代の中国にあたる地域の女性です。

同じ僻地に行く事になるのですが、彼女はとても数奇な運命をたどります。

国立故宮博物院所蔵

李唐 「文姫帰漢図」第十四拍

蔡文姫の詠んだ詩「胡笳十八拍」の一節や↑「悲憤詩」では、「いつも優しくしてくれたお母さまはどこに行ってしまうの?なぜ、いまは優しくしてくれないの?僕はまだ子供なのに、誰にみてもらえばいいの?」という子供との別れの箇所が。

・・・・号泣。

中学生の私に理解出来るだけのことだから、たかが知れているだろう。

けれど、行間に伝わる「悲しみ」は嫌でも心に響いた。

彼女は拉致されたうえ、12年後に子供も二人も出来て幸せに過ごしていたところを、今度はお金で買い戻されたのだ。子供と引き離されて。

彼女はとても教養が深く、のちに王義之に書を伝える事になる人物。私が尊敬している女性。

・・・仔犬のうちなら、まだ、いいけれど。

お里のブリーダーさんとSarahの別れが忘れられなくて。頭の中を「花嫁人形」の歌が流れ、心は子供との別れの詩にかき乱される。

遠くのお空に行ってしまった藍ちゃん。

本当はすぐにでもお前の側に飛んで行きたい。身体はここにあるけれど、心はお前のもとに。

でもね、Sarahが私を見るんだよ。それは、それは澄んだ無垢な瞳で。

・・・そちらでは、時間の流れは緩やかだろう?

ちょっと、眠っていておくれね。

この世の月日はあっという間だから・・・