麒麟の「秋味」解禁。
叔父に供えてやろうと思って買うてきた。
「死んでからやったって何の意味もない」とうちの親父様はよく言うとったわ。
だから「生きているうち」にやってやれと。
そうだな、お供えなんてものは、この世に残された為のもんだからな。
あたしは子供の頃から、酔っ払いが大嫌いで。
絡み酒の父方の叔父を軽蔑してた。
歳を重ねることに、飲まなきゃいられないんだろうと思うようになった。
子どももいなかった叔父夫婦の面倒は「×××ちゃんが看るんだよ」と両親に幼い頃から言われたから、叔父の介護だって当たり前だと思ってた。
早朝、川崎から百合ヶ丘の藍の散歩に行って、夕方17時過ぎ、やっぱり心配になって叔父のところに行ったら「寒い、寒い」と倒れていた。
でも、世間ではそれを「お人好し」っていうんだね。心配しすぎなんだそうだ。寺で生臭坊主に言われたわ。つまりそれは「馬鹿」ってことだ。
秋になると、叔父がサンマを焼いてくれる。
「×××は肝を取るか?」
「苦いの苦手だといけないから、包丁を斜めに入れといたから」
「お前の好きな『秋味』買っておいたから」
糞爺なほど、思い出す。
面倒くせぇ爺ほど、思い出す。
明日から病院に泊まりにくるから・・・と言って病院から戻ってきた数時間後に、叔父は死んでしまった。
独りで死なせてしまった。
寂しがりの叔父を、たった独りで死なせてしまった。
泣いてなかったことだけが、あたしの救いだ。
「秋味」はほろ苦くて切ない。