古希になる大学の先輩から電話がきまして
「×××ちゃん、三味線いる?」
「皮が破れてないならいる」
破れてなかったので頂戴いたしましたよ。
あたしの三味線は破れて以来、何度も三味線屋の前に行くんですけれどもね、張れずじまいで。
張り手も変われば音が変わる。
皮が変われば音が変わる。
よつかわ(猫)、けん(犬)、合皮・・・最近はヤギもあるとか。
一番いいのは出産をしたことのない雌の猫。喧嘩もしてないから皮もはじけない。仔猫が一番でしょうね。三毛の雌猫って聞いた気がしますが、実際のところはわかりません。
それで、これはよつかわの三味線でございますね。乳首の跡があるんです。おわかりになりますでしょうか?
撥は鼈甲を貼ったもの。
あたしの撥は象牙でございましたが、先がこぼれてしまいまして。
直すには落とさなきゃならない・・・落とすのが嫌で、ずっと木撥か爪弾きでございました。
今よつかわを張れる店は全国で一軒だけだとのことでございます。
皮にしても、鼈甲にしても、象牙にしても、今のご時世、動物愛護の立場からみたら
「なにそれ?だって猫ちゃんだよ?」
「伝統と愛護どっちを取る?」
難しい問題でございますね。
現状のあたしの心持ちとしては「もし」張るのなら
「合皮」でしょうかねぇ。
合皮は固く、音も堅い。手首も痛める。
江戸の音は消えていくでしょうが、もうよつかわもけんも使いたくはありません。
いま、日本に入ってきてるけん(犬皮)は中国からだと動物病院で聞きました。
合皮以外の三味線のほとんどはけん(犬皮)でよつかわ(猫皮)は少ないそうです。商売の方だけでしょうね。
この皮が破れたら・・・この子が最後だと思います。
「他の二棹は練習用だからいいけど、これはどのくらいかかったか知ってるから行方が知っているところがよかったの」
これは、あたしが大学時代に糸を切ってしまった先輩に、急遽用意して持って行った三味線の糸でございます、懐かしい。三味線鞄から出てまいりました。もう30年も前の話でございます。
あたしが生きている間は大事にこの子を手元に置いておきます。
昔、芸者さんは猫を飼ったそうですよ。せめての供養にと。芸者のことを「猫」と呼びますがこれは三味線を弾いていたからです。「意気」と「張り」を看板にしてた辰巳芸者の粋だけでも纏えたら・・・とも思いますが(笑)
もう、簡単な曲しか出来ないだろうけど、深川鼠でもひっかけて秋の夜長につま弾いてみましょうかねぇ・・・と思う次第でございます。
出したらシュナーズが大騒ぎでございました(笑)