お手々つないで

お手々つないで 野道をゆけば

下り坂を引っ張りやがるんでございますよ、こいつらは。

年老りのあたしにゃ、つらい、つらい。

いまから10何年か前。1月の終わりのこの時期、その年の2度目の入院を母がしました。

救急車で運ばれた母。このまま部屋で眠らせてくれと言った母を、あたしは自分が「この世にたった一人」残されるのが嫌で救急車にのせました。母はそのまま帰りませんでした。そのまま死なせてやればよかった。

母の手を引いて歩いてたあたし。その手はあたしが子供の頃、手をつなぎ引いてもらっていた手、見上げていた母の美しい手でした。

老いてしまった母の美しい手は、それでも白く美しかった。

幼いころ、母の手がピアノのおばあちゃん先生の「骨と皮のような手」になってしまうことを恐れて泣いていたのでした。それでも老いた母の手はそれはそれは美しかった。

いまは若いお前たちがあたしの苦労を知らずに、あたしの手を引っ張って歩く。

笑いながら「転んじゃうだろうが」と声をかけながら、坂道を下っていく。

でも、いずれ、お前たちはあたしより先に老いてしまい、お前たちの「手を引いて」歩く日がくるのだろう。

顔をみながら ゆっくりと のんびりと こえをかけながら

だいすきだよ だいすきだよ だいすきだよ

母や 藍にしたように

ゆっくり ゆっくり 隣を歩いていこう

あたしは この手をはなさないからね

お手々つないで 野道をゆけば

みんな可愛い小鳥になって

歌をうたえば 靴が鳴る

晴れたみ空に 靴が鳴る

・・・幼いころ母が唄ってくれた歌は、まるで空へあがっていく歌のよう。