カタカタ カタカタ
・・・最初ね、何の映像かわからなかったんだ。私。
時々、藍をなぜていると、頭に浮かぶ映像。
ある日、あぁ・・・って思ったんだ。
うちの叔父の家に来る予定の「シュナウザー」は、そもそも藍ではなかったんだ。
先代のアフガンハウンドのマミがお空組になっちゃって、年齢の事もあるから、叔父は「もう、犬は飼わないよ」って言っていた。そうだよね、70歳越えてたし。
ある日、叔父のお友達が引っ越す事になり、その引っ越し先は「犬」が飼えないらしいので、「叔父にシュナウザーを飼ってくれないか」って事になったらしい。「来月あたり犬が来るかもしれない」って笑って言ってた。
勉強熱心な叔父はその次の日から、ある「ペットショップ」に日参し始めた。
そこに「シュナウザーの女の子」がいたからだ。
どんな犬なのか。
どんな性格なのか。
どんな行動をするのか。
買い物がてら、うちの叔父は日参した。
その「ペットショップ」の「シュナウザー」に会いに行く為に。
一か月たった頃、叔父のお友達から連絡があり、「娘がやはり手放したくないというから、この話はなかったことにしてほしい」と。
・・・その場末の「ペットショップ」の「シュナウザーの女の子」は明日、静岡に行くらしい、と叔父は聞かされた。その時、その「シュナウザーの女の子」は八カ月に手が届く年齢になっていた。場末の「ペットショップ」がどうするのか、叔父にはわかったんだと思う。親戚に日本スピッツのブリーダーまがいがいたしね。
「×ろみ、明日、シュナの女の子がうちにくるぞ」
と連絡を受けた。
「お前が名前をつけろ」
・・・それが、藍だった。確か、5月31日。
三白眼で、愛想がなくて、真っ黒い塊で。
「あぁ・・・こりゃ売れ残るね」って感じの犬だった。
それでも、かわいくて、かわいくて、元気一杯で、大好きな黒い毛じゃもこらの生き物だった。
・・・血統書は、後になってわかるけど、某有名シュナウザー犬舎の末裔だった。
流れ流れて、父親の名前だけはご立派で、藍自身の「母親」はどっかの繁殖屋に散々こき使われて、きっと、ひどい犬生を送ったんだろう。調べたら、福島の繁殖屋だった。
藍が2歳過ぎの頃から、私を悩ませる一連の事があり、叔父の家にも遊びに行けなくなってしまった。
その間、藍は、老いた叔父を「たった一匹」で八年も支え続けていた。叔父の台所を片していて、お弁当屋さんのお箸がたくさんあるのをみつけた。
川崎の私の手元にきて、なぜ、藍が「ほっともっと」の前をのぞくかわかったよ。叔父が買っていたお弁当屋さんだった。泣けた。泣けて、泣けて、涙が止まらなかった。
どんなに、叔父は寂しかったろう。
どんな、思いで藍と過ごしてきたんだろう。
どんな風に、藍の瞳には映っていたんだろう。
・・・クレーンゲームって、藍がペットショップのウィンドウから見てた光景だったんだね。
でっかい音量の場末のペットショップで、何を思って、そんな光景をずっと眺めてたんだろう。
クレーンゲームで誰かに救ってもらえれば、まだ、幸せ。
クレーンゲームで誰にも掬ってもらえなければ、繁殖屋行きか、殺されるか。
まるで、神の箱庭だ。
藍・・・藍ちゃん。
私の藍ちゃん。
まだ、三週間しかたってないんだよ。藍のこと思わない時間なんてないんだよ。
どうして
どうして
どうして
ここにいないの?
藍だよ。
藍、大きいおばちゃんにねえねちゃんのところはどこ?
って、会うたびにきいてるんだよ。
大きいおばちゃんは、藍に、ぶつぶつ交換をいってくるんだ。
藍、そのてにはのらないよ
って、会うたびにいうんだよ。
藍はねえねちゃんを忘れないで、ねえねちゃんところにいくんだ
藍はねえねちゃんがわかるように、ねえねちゃんのところにいかなきゃならないんだ
藍、助けてあげれなくてごめんね。ごめんね。ごめんね。
藍ちゃん、藍ちゃん、藍ちゃん、なんてお前はかわいいんだろう。
私はお前にしてもらうばかりで、私はお前に何をしてやれたんだろう。
全て、私の自己満足だったのではないんだろうか。
私のやっていること全てですら、神の箱庭。
なんて、人間は奢った、愚かな生き物なのだろう。
藍、会いたいよ。会って、抱きしめたい。
何度でも、温かいお前のお腹に顔をうずめたいよ。
藍ちゃん、藍ちゃん、藍ちゃん
私の立っている場所はどこなんだろう・・・
藍ちゃん 藍ちゃん 藍ちゃん
お前の立っている場所はどこなんだろう・・・